映画を観たい人はどうか読まないでくださいこの映画を観終わった時、砂漠に一人放り出されたような気持ちになった。
クリント・イーストウッドは、弱者や問題を抱えている人々に暖かい眼差しを向けながらも、
厳しい現実を有りのまま、なんの迷いもなく提示する。
受け手である映画の観客は、目をそらさずこれを正面から受止めるべきだろう。
23年間、自分が背負った罪を購うために教会に通うボクシングのトレーナー、フランキー。
絶縁状態の娘と、過去に自分がそのボクサー生命を奪ってしまったジムの雑用係への想いが、
偶々出会った娘のような存在のマギーの悲劇的な結末を、一層悲劇的なものとする。
登場人物は皆、救いようのない過去や未来を背負っている。
劇中いくつも印象的な言葉が発せられる。内容もさることながら、
これだけ全てにおいて深く感動的な映画はそうそう見当たらない。
「誰でも一度は負ける」
「一つルールがある。自分を守れ。」
「モ・クシュラ」等々
フランキー(クリント・イーストウッド)とスクラップ(モーガン・フリーマン)の
いぶし銀の会話は、二人の間にある複雑な想いをひしひしと伝えてくれた。
なんと味のある二人であることか。あんな渋みを出せるぐらい深く生きたいものだ。
フランキーとマギーが惹かれていく様は、これが映画であって観客として観ているのではなく、
単なる日常の目撃者であると錯覚してしてまうほど極々自然に描かれている。
奇を衒った表現などなく、だからこそ観客は最後に深い感動に包まれる。
ボクシングジムでの光と影の描写は、登場人物の心情やそれぞれが
置かれた状況のメタファーとして、とても素晴らしいと思った。
「モ・クシュラ」(ゲール語)は、物語のキーワードとしてクライマックスの瞬間まで
その意味が語られない。
「愛する人よ。あなたは私の血だ。」
あまりに美しく悲しい言葉に、ここ最近にない心の震えを感じた。
マギー(ヒラリー・スワンク)の演技も、最初から最後まで、二人の名優に
負けないぐらい素晴らしかった。どこまでも救いのない物語のなかで、彼女の笑顔は救いだ。
クレジットを観ていると、音楽担当にクリント・イーストウッドの名前があった。
シンプルで美しい旋律が、物語にマッチしていてセンスの良さを感じさせる。