2006年11月12日日曜日

ビル・ヴィオラ はつゆめ

六本木で二つの美術展を観てきた。
クリーブランド美術館展とビル・ヴィオラ展、ちょうど過去と現在という対称的な展示会で、
足が疲れても退屈することはなかった。


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《ミレニアムの5天使》「旅立つ天使」2001年 
ヴィデオ・サウンド・インスタレーション



ビル・ヴィオラの作品を観て、人が感情を表現する作品は同時代的にはあまり評価されない
だろうなと感じた。表現方法が映画に似ているため、美術館という場所で観たときに違和感を
感じてしまう。個人的な感想かもしれないが。
でも面白い試みであり、「驚く者の五重奏」や「ラフト/漂流」は作品として完成度が高いと思った。

クリーブランド美術館展と較べて感じるのは、現代の作品はより感情が表に出ている事。
モネやモディリアーニ、ピカソなんかを見てると技法に長けた人達だなと思うが、そこに強い感情は
感じられない。もちろんゴッホのような作家もいるのだけど。

写真やヴィデオなどの技法がある現在とそれらがない過去を、単純に比較することはできないの
かもしれないが、芸術の果たす意味合いが変わってきているのだと思う。
過去は作家の表現したものの鑑賞に重きが置かれていたが、現在はそれにプラスして共感を
感じられるということが指標の一つに加わっているような気がする。

2006年11月4日土曜日

alva noto + ryuichi sakamoto insen

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Photo by Chris Godet


ミニマルで美しいコンサートだった。
アコースティックとエレクトリックの響きがこれほど調和するものかと感じた。
このコンサートには言葉は不釣合いだったが、最後の最後まで二人とも無言劇を演じた。
ステージの背景に映し出される幾何学的なイメージも音にマッチして、
思わず眠りに誘われそうになった。

坂本龍一のピアノだけを取り出してみると、益々憂いを帯びたというか哀しげな音に
なってきたような気がする。言い方を変えれば熟成してきたという感じだろうか。
矢野顕子のピアノが自由奔放に飛び回るのとは対称的だ。

2006年9月25日月曜日

One Loptop per Child

下の写真は非営利団体「OLPC」で開発されているPCの写真だ。
タイトルにある通り、世界中の子供に一台ずつ提供するという壮大な計画が進められている。
値段は100ドルとし、OSはLinux、フラッシュメモリを搭載、キーボード部分は埃が入らないように
ゴム素材で密封。発電は手回しハンドルや足踏みポンプで実現されるという。
既に中国、エジプト、インド、メキシコ、タイ、ナイジェリアなどで導入が検討されている。

これはエポックメイキングな取り組みになると感じた。世界最大のマーケットである発展途上国に
自発的なビジネスを起こすチャンスが生まれるからだ。子供のうちから情報を得られるようになり、
自ら情報を発信することを覚えることにより、これまで環境が恵まれていないがために芽を出すこと
がなかった才能が開花する可能性が大きい。たまたま最近読んだ本「ネクスト・マーケット 「貧困層」を
「顧客」に変える次世代ビジネス戦略(英治出版)
」で、発展途上国におけるビジネスの可能性が
語られていた。

僕が定年退職を迎える頃には世界の情勢は変わり始めているだろうか。
なんだか不思議と期待感を抱いてしまう。

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One Laptop per Child 公式サイト


2006年9月24日日曜日

ブレッソン 「見ること」の意味

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アンリ・カルティエ=ブレッソン 瞬間の記憶



こんなドキュメンタリーが撮られていたことに驚き、嬉しく思った。
ブレッソンの佇まいには達観した余裕のようなものが感じられ、
発せられる数々の言葉にはシンプルだけど深い意味が込められている。
BGMにはブレッソンが好きなバッハやモーツァルトが使われ、
作品全体のトーンを色づけていた。


劇中イザベル・ユペールが「彼は言葉の後の沈黙を捉えていた。」と
語っていたが、同時に映し出されるブレッソンの作品がそれを証明していた。
ポートレイトも数多く映し出されたが、マリリン・モンローの写真と
それを語るアーサー・ミラーの言葉は特に印象的だった。
ブレッソンが捉えた瞬間は、普段我々が見て知っているそれとは異なり
まさにその人の本質が見える瞬間なのだ。


「見ることが大事だ」
シンプルで当たり前すぎる言葉かもしれないけど、
ブレッソンの口から発せられるとき、多くの意味を感じることができる。
風景を撮るときに一瞬のその瞬間を逃さず、ポートレイトを撮るときに
モデルの人格を見抜く。そして一瞬を捉えたその写真に物語が生まれる。
他の多くの人が見過ごしている一瞬を見る、それは物事の本質を見ることを意味しているのだ。
思えばそれは、人生全てにおいて大事なことではないだろうか。
人との関係において。仕事において。


また、どこかユーモアも感じさせる生き生きとした作品が生まれたのは、
次の言葉に表される姿勢があったからこそだろう。

「写真のための人生なんて悲しい、生きているからこそそこに写真が生まれるのだ」

2006年9月18日月曜日

溢れるクリエイティビティ ブラッド・メルドー・トリオ

ブラッド・メルドー・トリオ 東京オペラシティ コンサートホール 2006.9.16

ブラッド・メルドー, Piano
ラリー・グレナディア, Bass
ジェフ・バラード, Drums


ジャズという括りでは、紛れもなく現在世界最高峰の演奏だろう。
アンコール5回なんてこれまでに経験したことがない。

1曲目がOasisの"Wonderwall”で意表を突かれたが、メルドーらしいアレンジでクールだった。
選曲という意味ではSoundgardenの"Black Hole Sun”も意外。
この辺りの選曲は今回から加わったジェフ・バラードの影響もあるのだろう。
3人の呼吸はぴったりで、一瞬たりとも目を離すことができないほど心地よい緊張感が漂っていた。
3者3様に創造的でそれでいて全体のバランスを保っている。

メルドーは今の世界のジャズの文脈の中に、彼のスタイルを確実に根付かせ、
決して商業的な方向へ迎合することなく、自身のクリエイティビティを貫き通している。
最高にクールだ。


■set list

1. Wonder Wall (Oasis)
2. Buddha Realm (Brad Mehldau)
3. O, Que, Sera (Chico Buarke)
4. Fat Kid (Brad Mehldau)
5. Black Hole Sun (Soundgarden)
6. The Very Thought of You (Ray Noble)
7. She Is Leaving Home (J. Lennon/P.McCartney)

Encore

1. No Moon At All (David Mann/Redd Evans)
2. C.T.A. (Jimmy Heath)
3. Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
4. Countdown (John Coltrane)
5. Exit Music (For a Film) (Radiohead)




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2006年9月3日日曜日

この疾患を治癒させるために破壊する

横浜美術館で開かれている日本画展に足を運んだ。

藤井雷と松井冬子のトークイベントが開かれるということもあり、
美貌で噂の松井冬子を生で見てみたいというミーハー根性もあったが、
彼女の絵を実際に見てみたいという気持ちが強かった。

中でも非常に素晴らしいと感じたのが「この疾患を治癒させるために破壊する」。
共感と共に嫉妬のような感覚までも覚えてしまった。
この絵に出合えて良かったとも思えた。
彼女の絵には女性固有の感性が感じられるけれど、この絵の美しさと恐ろしい吸引力
のようなものにはそんな枠を取り払ってしまえる力を感じた。
これまでに見たどの絵とも異なる存在感。
単に日本画と括ってしまうことには違和感を感じる。


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松井冬子   この疾患を治癒させるために破壊する


彼女の絵には一貫した闇が感じられるのだが、制作は太陽の光の届かない地下室を
アトリエとして、しかも深夜に行われているという。
音のないしんとした時間帯が集中できると語っていた。
BGMはテクノミュージック。一種のトランス状態を演出するのだろうか。
確かに日光が燦々と照りつける日中に描ける絵ではない。

印象的な発言に『光は時間だと思う』という言葉があった。
そう言われてみると、「この疾患を治癒させるために破壊する」が放つ光は
確かに時間の流れを感じさせる。
彼女が描く絵には一見してグロテスクなものもあるが、彼女自身にネガティブな発想はない。
その言葉からはむしろポジティブな思想を感じる。
自分が存在している環境やそれに伴う感情を在るがままに受け入れて、
時間の流れに身を任せていくような。


日本画にはその周辺の状況から偏見があった。
だけど、今回展示されている画家の作品を見てその偏見は取り除かねばと反省した。
ここでは他の画家の作品には触れないが、ここ最近にない面白い展示会だった。
今の日本だからこそ出てくる感性なのだろう。


2006年8月6日日曜日

インターネットの覇者の10年

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今この瞬間も現役でバリバリ働いている人たちを取り上げて、
ここまで徹底取材した本もなかなかないだろう。
ネットビジネスはまだまだこれから伸びていく可能性を秘めていると思うが、
今のY!の一人勝ち状態はあまり健全な形ではない。
そういった意味で、ネットビジネスを盛り上げていくためにも、
この時期にこういった本が出版されることは意味があると思った。
Y!のビジネスの考え方がこれを読めば大方分かってしまう。
(分かったからと言って、簡単に真似できるものでもないが。)

Googleとの大きな違いと、なぜ日本ではY!が強いのか、
それもこの本を読めば輪郭がくっきりとして、頷けるのではないだろうか。
Y!の成り立ちも日本のビジネスも「人」の力によるところが大きいのだ。


 

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