2006年11月19日日曜日

麦の穂をゆらす風

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ケン・ローチ作品が好きで、この作品にもいつも通りの期待を抱きつつ観た。
しかしこれほどまでに心を揺さぶられたことは久しくない。

IRAと言えば、日本ではテロ組織のイメージがあるけど、この映画ではその成り立ちが描かれ、決して単純な問題ではないことが読み取れる。宗教とイデオロギーと貧困の生活が複雑に絡み合っていることが丁寧に描かれている。U2がサンデー・ブラディ・サンデーを繰り返し歌い、紛争の犠牲となって命を落とす若者を想い嘆いていたが、その事実も忘れ去られつつある今、この作品が投げかけているメッセージは非常に重い。

そしてそのメッセージを、名もなき普通の人々と同じ位置に立った優しい視線で、ケン・ローチは坦々と綴る。兄弟愛、友情、恋、イデオロギー、貧困、歴史など様々な要素を織り込みながら、血の通ったとても切なく厳しい物語が展開される。

ケン・ローチの作品としては「大地と自由」「カルラの歌」に続く紛争ものということになるが、僕の中ではこの作品が過去最高の作品になりそうだ。いろいろなシーンが目に焼きついて離れない。一つの決心が運命を変え、イデオロギーが血の繋がった兄弟間にさえ悲劇を生む。兄弟を思い、友情も愛も感じることのできる心が、イデオロギーの雁字搦めからは逃れられない。


この作品は、イギリス人であるケン・ローチがアイルランド側の視線に立って描いたことにも意味があると思う。劇中で描かれているイギリス兵(ブラック・アンド・タンズ)の残虐さは非常にショッキングで、我々日本人の意識を変えるものにもなるかもしれない。日本人は自らこのような映画を作れるだろうか?

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